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代表インタビュー 代表取締役社長 車 陸昭

「お客様にやさしいIT企業No.1の実現」―20年ゆるがない経営理念の背景にある代表の想いとは?

2001年に創業し、Webシステムやスマホアプリ開発、自社ERPパッケージ開発、DXコンサルティング開発、インフラ構築・運用保守にいたるまで、幅広いITサービスを提供してきた株式会社ケーエムケーワールド(以下、KMK)。経営理念は「お客様にやさしいIT企業No.1の実現」です。なぜ、IT企業が何よりも「やさしさ」を標榜したのでしょうか?そこには、代表取締役社長である車さんの熱い思いが込められていました。今回はそんなKMKの根幹である経営理念が生まれた背景やその実現のための取り組みについて、たっぷりお伺いしています。

ケンウッドの営業マンが一転、知識ゼロの状態からエンジニアに

最初に、車さんのご経歴について簡単に教えてください。

前職は株式会社ケンウッドの国際営業本部で営業マンをしていました。入社は1995年です。ケンウッドは国際貿易が盛んで世界中に拠点を持っていたので、貿易的な仕事に魅力を感じて就職しました。ただ企業に入社する前から、「いつか自分で起業したいな」という思いがあったんです。ケンウッドには4年ほど務めたのですが、1999年のITバブルを受けて「Yahooや楽天のようなポータルサイトを作れば、上場企業を立ち上げられるはず。将来はITだ!」と思い、後先も考えずに会社を退職しました。当時ケンウッドでは海外支社に出向する申請を出していて辞令まで出ていたのですが、「ここで海外に行ったら一生サラリーマンだ」と考え、悩みに悩んで辞めたんです。当時の上司には謝り通しでした(笑)とはいえ、当時の私にはIT知識が全くなくて。右も左もわからない状態だったので、会社を辞めてからはまず大手SIerから仕事を受けて、システム構築の仕事に取り組みました。もちろんそのかたわらで、必死に本を片手に勉強をする毎日でしたね。

ベンダー都合の開発に疑問を抱いて生まれた「お客様にやさしいIT企業」

IT分野に関しては、全くゼロからのスタートだったんですね。

はい。そんな中、素人ながら大きなプロジェクトの立て直しに入れる機会があって。上場を目指す企業の社内基幹業務システムの構築プロジェクトで、私は一番重要な業務を任されました。1年半ほどかけて要件定義から開発、納品までを手掛けたのですが、上場を目指すということで、ユーザー側としてはやりたいことがたくさんあるシステムだったんです。一方で予算や納期は限られており、その中で品質もユーザー満足度も上げなければなりませんでした。最終的にそれができたかというと、やはり完璧ではなく、我々はプロパーでもないしPMでもありませんでしたから、どうしてもベンダー都合でプロジェクト開発を進めてしまったなと強く感じました。本当にお客さんにとって良いものを作れたのだろうかと、疑問を抱きましたよ。システムを無事納品した後、私は2001年にKMKを設立しました。KMKの経営理念は、実はこのときのプロジェクト経験が深く関わっています。

KMKを立ち上げて、最初はどのような経営理念を掲げたのでしょうか?

「お客様にやさしいIT企業をめざす」です。今の経営理念が「お客様にやさしいIT企業No.1の実現」ですから、実は20年間思い続けていることはほとんど変わっていないんですね。お客様に100%満足していただくのは当然のことで、120%を超えたものを提供しないと、感動は生まれません。これを前提として、いかにユーザー目線で使いやすいシステムを作れるか。そのシステムがリアルに企業の利益に貢献できるか。エンジニアとして働いた経験を経て、私は「これこそが自分たちの存在意義である」と定義し、「お客様にやさしいIT企業をめざす」という理念を掲げました。

お客様だけでなく、従業員にも社会にもやさしくありたい

なぜ、今は「No.1の実現」という表現が付け加えられているのでしょうか?

経営理念を変更するという話が持ち上がったのは、2009年頃だったかと思います。経営幹部全員を集めて合宿をしたときに、経営理念について改めて考えて。ただやさしい企業を目指すだけでは少しトーンが柔らかすぎるのではないかという意見を受けて、はっきりと「No.1」を目指すことにしました。このとき「やさしさ」の解釈を膨らませて、「お客様」だけではなく、「従業員」と「社会」も幸福になるやさしいIT企業になろう、と決めました。SEの業界では、ユーザーファーストのために従業員を犠牲にしてしまうような、相反する話も多いですよね。我々はそうではなく、ユーザー目線を実現するのと同時に、会社経営をする上でのステークホルダー全員にメリットがあるような仕組みを作っていくべきだと考えました。

なるほど……。では社会へのやさしさについては、どのような背景があって掲げたのでしょうか?

抽象的な表現ですが、やはり会社を作った以上は社会にどう還元していくかは重要なことです。今でこそ会社責任は当たり前のように問われるものですが、私が創業した2000年代当時は、会社の社会的責任を打ち出すような風潮ではありませんでした。経営理念を見つめ直したのをきっかけに、そこを改めて言葉にしたということですね。私の考えとして、社会への還元というのは第一にしっかりと納税すること、つまり黒字経営を行うことにあります。実際に当社は2001年の創業以来、実際に20年間黒字経営を続けてきました。こうした背景があって、「社会にやさしいIT企業」を掲げています。

IT領域のプロとして120%の顧客満足度を追求していく姿勢を持つ

実際に経営理念を体現するために、どのような取り組みをしているのでしょうか?

まず「お客様にやさしい」という視点では、ユーザー目線を持った主体的なご提案を目指しています。ただシステムを漠然と作るのではなくて、顧客のビジネスや経営視点までを理解し、その上でお客様の利益を追求できる存在感の大きいサービスやシステムを作る。顧客満足度120%を担保するためにはどうすればいいのか、従業員の姿勢も含めて意識し、行動していくというのが我々の考え方です。例えばディズニーランドと同じようにIT企業はサービス業であり、原点は顧客満足度の追求にあるというのが、私の持論です。スタバに行くと、明るい声と笑顔で非の打ち所のない接客をしてもらえますよね。IT企業においてもそれこそが顧客満足度No.1につながるのだと、私はいつも社員に説明しています。こうした考えが社内にも浸透した結果、クライアントからの信頼を得て継続的に受注を獲得していますし、ときには長文で感謝のメールをいただくこともあります。

では、「従業員にやさしい」という視点ではいかがでしょうか。

「従業員にやさしい」については、1年のうちに最低1つは、従業員が働く環境を改善するための施策を実行しようと取り組んでいます。例えば資格取得のための一時金支給や、参考書の購入費用補助制度なども成果一つです。年に1回の社員旅行、海外への社員旅行も3年に一回実施しています。社員からの提案ももちろん受け付けていて、年に2回の経営層での合宿で意見を吸い上げ、改善できそうな内容であればその場で決を採り、次の期から経営に反映させています。従業員が増えるにつれて結婚をする人も増えてきたので、会社からパートナーの方にちょっとしたプレゼントと手紙を贈ることなんかもありますね(笑)。もちろん会社経営をする上ではドライになる部分もあるのですが、当社はどちらかというと人情味のある部分が多いのではと思います。家族的な会社と言うのでしょうか。というのも、IT企業は「人」が全てだからです。人材に対してどれだけ投資ができるかは、重要な要素として考えています。利益と投資のバランスは難しいですけどね。当社は例えばコロナ禍で多くの企業がオフィスを縮小する傾向にある中にあっても、大型のオフィス契約を更新して現状維持していますが、これは社員にモチベーション高く仕事をしてもらうための居場所を確保してあげたいからです。よりどころがないと、会社というものがあまり面白くなくなってしまうのではないかと思うんです。

「社会にやさしい」という視点はいかがですか?

「社会にやさしい」については、例えば社内で「社会にとって必要なサービス」を従業員たちが考え、コンペを行った実績があります。とはいえ、それらを実際に開発してマネタイズするのは難しい部分があるので、正直まだまだ長期目線での努力が必要ですが、こういった社会貢献目線での新規事業開発を常に標榜しています。今のところは、やはり20年間コツコツ黒字経営をしてきたことが、社会に対する自負ですね。

エンジニア一人ひとりの力量が問われる世界だからこそ教育も怠らない

経営理念に紐付けて、「KMKらしさ」はどこにあるとお考えでしょうか?

従業員の教育でしょうか。私自身がIT企業の現場に張り付いて仕事をした経験を経て感じることですが、お客様が求めているニーズに対して、実際に技術者が実現できることの間には、常に矛盾が生まれます。そこをどう妥協点を探りながら最終的に良いものに仕上げるかは、ひとえにプロジェクトマネージャーの手腕にかかっています。加えて、エンジニアそれぞれのスキルが重要です。これは、大きなプロジェクトになればなるほど顕著です。例えば銀行が扱うような大規模システムは、一定期間で一気通貫の開発ができるかというとそうではありません。プロジェクトマネージャーがフェーズごとに目標を立て、計画的に作っていかなければ失敗していまいます。つまり、IT企業が本当に社会に役立つような組織になるには、一番小さい単位である技術者個人の力が欠かせないのです。例えばKMKが100万人の社員を抱えるほどの大企業だったとしても、社員一人ひとりに教育をしっかり施さないと、上手くいかないでしょう。だからこそ、当社は新卒に対して内定承諾後、入社前から行う内定者研修・リモート研修や、入社後の研修、OJTをきっちりと行っています。100名規模の企業でこれだけ手厚く教育を行うケースは、あまり無いのではないでしょうか。

会社として、教育の重要性を重視されているんですね。

そうですね。新卒で採用した社員をITの基礎も教えないまま、プロジェクトアサインする企業も多いです。何もわからない状態で難しい業務に臨んでしまうことが、IT業界が「キツい」「厳しい」と言われる原因でもあるのかもしれません。そうではなく、社員に基礎知識を学んでもらった上で立派なIT人材に育てる教育活動は、企業の大小を問わずにしっかり推し進めるべきです。それが、業界全体の質を上げることにもつながるのだと思います。